たまりば

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ここは悲しみを埋めた場所。


ここは悲しみを埋めた場所。
ダーク(サイド)ツーリング渡良瀬遊水地再訪。









































栃木、群馬、埼玉、茨城の四県にまたがる広大な渡良瀬遊水地を外周の堤防から見渡すと随分と黒ずんだ地面が広がっていました。
実は訪問の1週間前の3月16日に恒例の「ヨシ焼き」が実施され、国内最大級を誇る約1500ヘクタールものヨシ(アシ)原が焼かれた跡でした。
春先のまだ草木の新芽が出ない時期に各地で行われる「野焼き」や「山焼き」と同じですよね。放置しておけば樹林化してしまう土地を焼くことで、草地に初期化しちゃうわけです。伊豆の大室山の山焼きなどは首都圏でもニュース映像でよく見た気がします。
「ヨシ焼き」の目的は、病害虫の駆除、周辺のヨシズ農家にとっては原材料の良質のヨシを育てる為、最近はラムサール条約に登録された貴重な湿地環境を守る意味もあります。

それにしても草木の種子の生命力って凄いと思いませんか。ヨシを焼くことで日当たりが良くなり、有機物が灰などの無機物に変化し肥料になることで、多様で新たな芽生えを促すなんてね。

要塞みたいな無骨な外観のウォッチングタワーに登ってみて驚いたことがあります。天候と季節次第では、この場所から富士山、秩父連山、浅間山、榛名山、赤城山、白根山、日光の男体山、女峰山どころか、なんと山形県と秋田県にまたがる鳥海山までもが見えるらしいのです。びっくりでしょ?

渡良瀬遊水地には負の歴史もあります。
足尾鉱毒事件による土壌汚染の沈殿池の側面があります。銅山開発という日本の近代化の過程で発生した公害の原点の生き証人でもあります。

かつてここには谷中村という人口2500人程の村が存在したのですが、強制的に廃村と決定され、最後まで住み続けた人たちは政府によって家屋を破壊され追い出されています。そんな大きな犠牲の上にあるのが現在の渡良瀬遊水地です。ひとつの産業が人の住めない土地を地図上に作ってしまったのです。
まるで8年前の原発事故で帰宅困難な土地を作ってしまったことを想起させてくれる気がします。
フクシマの世界最悪のレベル7の事故が現在進行形であるように、約120年の《公害の原点》とも語られる足尾鉱毒事件でさえもまだ収束はしていないのも事実です。

以前、渡良瀬川上流の銅(あかがね)親水公園付近の監視カメラがあったような気もする「車両進入禁止」のゲートまでは行ったことがありますが、その先には歩を進めてはいないので、機会があったらゲートの先のもうひとつの煙害で消された村、松木村跡も徒歩で訪問してみたいとは思っています。
旧谷中村付近を歩いてみるとわかりますが、盛り土で一段高い場所は屋敷跡であったりします。残っている屋敷林もあります。かつての神社や寺の跡地も案内があります。谷中村の子孫の手で、悲しみを埋めた故郷の土地として今も大切にされているのがわかります。

足尾鉱毒事件は教科書に出てくる過去の話だけではありません。近代日本150年の生んだ光と影を考えれば、むしろ今も新しい課題を私たちに突きつけている気がします。
無事是名馬也。いつか路上で。

PS.の遊水地の中にそびえ立つタワーに思わず「あれ?あんなところに砦のような(三里塚の)横堀要塞みたいのがあるけど何だろう?」と思って近づいてしまう私って一体・・・(苦笑)

注)「ダーク(サイド)ツーリング」とは、《人類の悲劇を巡る旅》と一般に定義される「ダークツーリズム」から思いついたバイクツーリングをかけた造語です。

▼渡良瀬遊水地
https://watarase.or.jp/